いい家とは

「世界にいい家の定義があるなら」

森の駅発 元気木の家研究会 会員    2015年 4月 21日
株式会社  増 田 林 業    代表取締役   増 田 治 郎

「住まい手の安全と居心地良い状態を、最少負担で永く保つ事が出来る」は、大切な定義の1つであると思います。
人の寿命から考えて家の寿命は人間以上が理想的耐用年数です。
人が暮らす家は地球上に膨大な数を必要とし、地球環境に優しく造り上げる事が出来るも必須項目であります。
「いい家はどの様な造りの家なのか」を考えるにあたり、まずその家が建つ地域が何処であるかにより、その答えは違ってきます。
地球上の地域により「気候風土や社会慣習」が変わるからです。
この違いがあるからこそ世界中にはそれぞれに異なる造り方の家が誕生発達しました。

いい家の定義に当てはまるには、それぞれの地域の『気候風土や社会習慣』に適合している家の造り方が基本として大切です。
日本であれば、やはり夏の高温多湿で多雨、台風による強風、冬には降雪もあり、低温度と低湿度にもなり、地震の頻発で大地がたえず揺れるが主な気候風土特性です。
社会習慣の基本的根幹は農耕民族の特性として土着性があり、狩猟民族の移動型ではない、当然生活に密接に関係する家の造り方も変わってきます。
土着性の場合、永く住み継ぐには、家自体を経年の家族構成の変化に対応出来る造り方や、変化し易い構造と材料の家が住まい手のストレスをため込まず必須です。
住宅として、組み変え可能な木組み木造が日本で発達した理由の一つです。

狩猟民族の移動型の場合、簡単に出来る事を優先し、その時々にあった家に住み替える為、構造体の変化は必要としない工法が発達します。
一生に多くの住み替え文化の国、米国のツーバイフォー工法がそれですが、土着性のある日本では構造体変化に適さない工法はこの点でも不適です。
この様に地域特性に即していることが、いい家になりうる条件となります。
家を造るには材料と技術が必要であり、それらもその環境特性に当然あったものでなければ、問題がいずれ露見します。
現在の住宅短命化はその現われと考えます。

永く住み継ぐ事の出来る、いい家の材料については、身近に豊富にあり、いつの時代でも調達出来、加工性も良く、丈夫かつ気候風土特性に適合した材料が好ましく、人の寿命から100年程を「いい家の寿命」と考えるなら、材料となる素材自身の劣化スピードが永いこと等が大切です。
こうした条件を満たしたからこそ、湿度の高低が大きい日本では居心地の良い調湿性のある木造の建物が数多く造られてきました。
日本の建築物向上を目指し昭和25年制定の建築基準法が勿論ない時代に造り手達の五感を働かせた経験、知識によるその技術は年月を経て磨かれ、30mの高さをこえる1300年前の木造建築物が現存する程です。
日本各地にはそうした匠による築100年以上の家も数多く現存し、本来、高い木造技術で高耐久性を日本は誇って来ましたが、法律制定後の今日、日本の建物寿命は30年以下と統計資料は示し、欧米の半分以下の家の寿命数値は「気候風土、社会慣習」の特性に、現代住宅が対応出来ていない問題点があることを示しています。

住宅造りの技術は経験の積み重ねにより確立されるものであり、簡単なものではありません。
日本では50年程前より住宅展示場ができ、型式認定制度を利用した家の造り手として最新技術を売り物に量産型メーカーが新たに出現し、
造り手都合が優先された工法と材料で、新製品を次々と発表し、自動車と同じ感覚で生産された家は、15年程でメーカーごと新製品ごとの
専用部材は次々と廃番になり、家族構成の変化に対応した改修工事が出来ない等の問題を引き起こし、現在に続く住宅短命化の一因になっています。

またメーカー都合の調湿性の無い材料で作られた家は、結露現象から健康を害する湿気によるカビの発生を招き、家ダニ問題も深刻になり、除湿器や強制換気システムを必要とし無駄な電気エネルギー消費につながる。
それら量産メーカーの製品構造素材の多くは鉄等の輸入素材により構成され、その宣伝にエコや省エネルギー性、CO2削減を唱ってはいますが、生産過程において既に大量のCO2を吐き出している事は、地球温暖化防止の意味からも大きな問題点です。
家は商品となり、大手である安心感に多くの施主はその説明を信用し、地域特性に合っていない家が残念ながら、今も増え続けています。
日本は世界有数の森林国であり木材資源は豊富に国内にありながら、日本の湿度に弱くシロアリ耐性が無い寒冷地外国産材が家の主用木材として、化石燃料を消費し貨物船で大量に輸入される現状は、経済的にも世界のCO2削減にも反しています。

住宅用木材が大量輸入され使用される事により、日本の地方における基盤産業である林業は衰退し、専門職を無くし、森林荒廃を招き、里山過疎化による限界集落進行問題に繋がっています。
外国産材とともに乾燥地域で発達したツーバイフォー工法が、国の輸出入政策で導入され合板貼りで手早く簡単な事から国としても、高度成長期の住宅不足時代に良とし、安易にツーバイフォー工法の合板貼りパネル壁の外力対抗数値と機密性のみに囚われ、高温多湿気候での構造体自身の通気工夫は忘れ去られ、本来日本の頻発する地震に対し柔軟に外力を逃がす「柔軟免震性」で造られてきた五重の塔や工学的最先端技術での超高層ビルやスカイツリー等に反し、行政は低層建築物に構造壁体の変形数値のみを重視し、合板パネルで家を固める方向性で木造軸組み住宅にも合理的工法としてパネル貼りを奨励し、今日に至ります。
しかし建物を固めるパネル工法は外力が集中し、一気破壊の危険とパネルを止める耐力釘の浮き緩みは、頻発する地震にはむしろ弱いのです。
この事は実物大耐震実験施設Eディフェンス等の実験データーも示していますが、なぜか一般社会に伝わってはいません。
一気破壊は人命に関わる倒壊の仕方であり是正は急務です。
耐力釘の浮き緩みは余震等その後の地震に対抗力を失い危険であり、その復旧は建て直しに近い費用増大を伴う大きな問題となります。
その他の問題点として構造体に使用される合板接着材は石油系素材が多く、他の素材に比べ素材劣化が比較的早く、湿度の高い日本では構造壁体空間内部に生じる結露水に晒された場合には、なお短くなる性質があるにも関わらず大量に使用され、新たな問題としてシックハウス症候群を引き起こしているのです。

住まう人の健康を害するは、いい家の定義からは大きく外れ、あってはならない事です。
木材も接着材で貼り合せた集成材が今日主流になりつつありますが、これらは欧米で既に建築が認められている、10階建程の中層建築の使用には、空調コントロールし易く、木の持つ特性として重量当たりの荷重耐力の強さや、太い材の使用による高い断熱性により結露も発生せず、
熱による変形や耐力低下が無く、炭化作用による防火性等で鉄骨造やコンクリート造よりむしろ適し今後の展開は期待できます。
個人住宅での集成材使用は多くが量産目的であり、これらの事は住まい手が望んでいる事ではなく、その多くが造り手都合による事が問題点であります。
日本での理想の家とは、永く住める事による経済性と自然木の天然乾燥により、自然素材の特性を生かし、家族構成変化に木組みで対応出来る、木の家を手刻み加工で創ることで家族の健康と安全、造る過程からのCO2排出総量の少なさが地球に優しい意味からも最も理想的な住まい創りになります。

そうした理想に反し、行政は省エネルギーを奨励しながら、個人住宅における「室内科学物質汚染空気入れ替えを強制する24時間換気の義務」づけや、材料の「化学物質の使用数値表示義務」のみの対応は、場当たり的で、住宅の安全に対する、使用禁止の根本解決になっていない事を改めるべきです。
また密閉された構造壁内部の結露によるカビ,腐朽問題も招いています。
近年の住宅短命化対策として長期優良住宅なる指針を行政は示すが、残念ながら接着剤耐力に頼る合板パネル貼りの基本姿勢は変わってはおらず、接着層により湿気の抜けにくい合板貼り密ペイ耐力壁の外に透湿シートと、通気層では「ウエットスーツの上にゴアテックス着用」と同じで通気しません。
長期優良住宅として人間の寿命以上の耐久性を考えるにしては、素材劣化の早いビニール製防湿シートで室内水蒸気の壁内移動を止める等はお粗末過ぎる施工指針と考えます。

日本の木造建物を造り上げてきた先人達の耐久性にかかわる構造体自身の湿気に対する工夫、知識、知恵を見習い、地震に対しては木の持つしなやかさを生かした、木組み構造で外力を逃がす工夫と、その外力を木材のシナリを利用し容易に元に戻せる工夫、もし傾く場合があっても一気に潰れない人命を救う構造工夫などなど、いい家の定義に沿った、いつまでも快適、安全に住み継ぐ事が出来る、地球にやさしい長持ちする家の造り方を、根本的見直し、長期にわたる住宅短命化の要因がある事を重く受け止め行政並びに住宅の造り手に、以下の4点を総括として提言させて頂きたいと思います。
① 高層ビルや五重の塔の柔軟免震性を見習い、柔軟に外力を逃がす方向性、
② 耐久性に影響する日本の気候特徴である湿度に即した工法、
③ 土着性社会習慣での戸建て住宅における経年による生活変化に対応した改修し易い家の部材研究を含めた建築方法の指針、
④ 生産時、メンテナンス時にCO2を大量発生する偽エコ住宅の撲滅、生産過程段階から解体されるまでのCO2削減の家造りの奨励、
以上を日本の住宅における耐久性アップと地震に対し「しなやかな強さ」による安全確保また真のCO2削減、地球温暖化防止に繋がる家づくりの為、速やかにこれらに関しては根本的に改善すべきではないでしょうか。