「森の駅発」メルマガ 第71号
・東京大学 総合研究博物館 大場秀章教授による「ニセアカシア」の紹介
・山小屋通信–12「芸術の冬」大森 明
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
前回の山小屋通信で大森氏が取り上げた「ニセアカシアの樹」をご覧になった、
桜井当会副会長から、ニセアカシアとアカシアの木の違いについて、
学名を織りまぜつつ解りやすい解説を頂き、前号で一緒にご紹介致しました。
その時同時に、大場秀章教授のニセアカシアに関する詳細なレポートも、
桜井先生からご案内頂きましたので、今回読者の皆様にご紹介致します。
なお原文には多数のカラー写真が添えられ、
理解を深める助けになると共に楽しく学べますので是非ご覧下さい。
以下のサイトでご覧になれます。
http://elekitel.jp/elekitel/nature/2002/nt_07_niseak.htm
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ニセアカシア 東京大学 総合研究博物館 教授 大場 秀章
5~6月に長く垂れ下がる総(ふさ)状の花序に、
たくさんの白色の蝶形花を密につけた様子は、他に例をみないニセアカシアならのものである。
もっとも、木本で花序に多数の白色花をもつ種としては、
他にエンジュ(Sophora japonica)があるが、エンジュの花序は円錐状で直立し花数も多く、
かつ花は長さ1.5センチほどで2センチを超えるニセアカシアよりも小さい。
ニセアカシアの果実は無毛の幅広い線形で、熟すと2片に裂けるが、
エンジュの果実は数珠状となり、裂開しない。
ニセアカシアの果実の長さは8センチほどで、中には5から10個の種子が入っている。
<多数の小葉からなる複葉>
ニセアカシアの葉は羽状複葉といい、
ひとつの葉が多数のパーツ(これを小葉という)にわかれている。
葉の中央にある軸の左右に5から10対の小葉が対生してつき、しかも頂にも小葉がでる。
そのため小葉の数は奇数となるので、
ニセアカシアのような複葉の葉を奇数羽状複葉と呼んでいる。
小葉は卵形または楕円形で、長さ3センチ前後で、先は円形また微凹形になる。
葉の基部にある刺は托葉が変わったものである。
<巧妙な花の構造>
ニセアカシアなどマメ科の植物には、蝶の形に似た蝶形花をもつものがたいへん多い。
蝶形花の名前は、あたかも蝶のようなかたちを、5ある花弁がつくることに因む。
蝶の頭の部分と思しき位置にある花弁は旗弁、2対の羽根は翼弁と龍骨弁と呼ばれる。
旗弁は1個で、真正面から見ると、花の上方に他の花弁と向き合うようにつく。
雄蕊と雌蕊は束状となり、下側で合着する2個の龍骨弁の中に納まっている。
その左右の龍骨弁の外側に位置するのが翼弁である。
蝶形花をもつ植物では、
花にやって来た昆虫などは雌雄蕊(しべ)のつけ根に貯められた蜜を吸うため翼弁に脚をかけ、
旗弁の基部めがけて口吻を突っ込む。
そのとき脚に力が加わるので、翼弁は押し下げられ、
これに連動するかたちで龍骨弁も下方に下がるので、
雌雄蕊の束は剥き出し状態になり、昆虫の腹に接触する。
そのとき、雌蕊は花粉をもらい、雄蕊は他の花へ花粉の輸送を託すというわけだ。
しかも、白い芳香のある花を開くニセアカシアでは、ハナバチのような昆虫が、
どこに口吻を差し込んだらよいかの目印として、
旗弁の基部には黄色の斑点が用意されているのである。
ニセアカシアなどマメ科の植物は花を虫媒に適したように構築する一方で、
乾燥に強い果実を生み出している。
かなり進化した植物だといってよいだろう。
<枕木等の土木材に>
ニセアカシアは明治7年(1874)に種子が導入されて、次第に普及した。
播種後1年で樹高は1メートルになり、初めの20年間は迅速に生長する。
その迅速な生長力がかわれ栽植が広まったのであろう。
ニセアカシアの材は心材部が黄緑あるいは黄褐色、辺材部は黄色あるいは黄白色で、
とても硬く、腐食に強い。
そのため、長期の用途に耐える必要がある枕木や坑杭のような土木材に適していた。
硬いことがかわれて器具材や轆轤細工にも利用されることがある。
10年以上たった材は火力が強く薪炭材にもなるらしい。
こうした木材としての用途もさることながら、
普通、ニセアカシアの用途は観賞や砂防用に植栽することであろう。
とくに花は見栄えがするため、ヨーロッパなど日本以外の地域でもよく栽培される。
韓国でもニセアカシアは道路の法面などに多く、花期のドライブを潤いあるものにしてくれる。
しかし、自生地の北アメリカ東部では私が見た限り存外個体数は少なく、
どこにでも生える普通の木だとはいえない。
<アカシアは別の植物>
日本では本種は単にアカシアと呼ばれることがある。
これはニセアカシアの英名であるFalse acaciaや Locust acaciaによるものと考えられるが、
本来のアカシア(アカシア属Acacia)はサバンナのような乾燥地に生え、
たくさんの雄蕊をもち、しかも花弁が雄蕊よりも小さいなど、
ニセアカシアとはまったく別物の植物である。
混同を避けるためにもニセアカシアの名前を定着させるべきである。
また、ハリエンジュという名もある。 <2002.08>
<データ>
ニセアカシア(別名ハリエンジュ)
種名:Robinia pseudoacacia L.
分類:マメ科ハリエンジュ属(Robinia)
分布:北アメリカ東部。
樹高:落葉高木で、高さ20メートル以上になり、直径1メートルに達する株もあるという。
植生:自生地では土壌の発達が悪い痩せ地の林地に散生する。日本では砂防目的や街路樹
などとして植栽されるが、逃げ出して痩せ地や窪地のような過湿なところに野生化している。
種子によらず地中を横走る根から萌芽し繁殖するため、
しばしば多数の木が群生して生えている。
(「シリーズ 自然を読む 樹木の個性を知る ニセアカシア」より)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
山小屋通信–12 「芸術の冬」 大森 明
山小屋の冬は早い。
紅葉が終わると、大量の落ち葉や枯れ枝。
山の落葉樹はすっかり葉を落とし、森の中も明るくなる。
ただ、カシワの樹だけは、茶色い枯葉が全て、しぶとく枝にしがみついている。
朝晩の気温もぐっと下がるようになり、
焚火の消火用バケツの水が10月末に凍ることもあり、
ボイラーが凍結して壊れたこともある。
11月には雪がちらつくこともある。
この頃になると、もう2~3千mクラスの山には登れないので、
山小屋は工房に早変わりする。
クリスマスリースや、間伐材や木の実などで作る工芸品が、
(ガラクタと見る向きもあろうが…)ここでたくさん生み出される。
材料は、裏山の森が豊富に供給してくれるお陰で、
クリスマスリースは掛ける壁が無くなるほどだ。
そのほかの森の恵みの工芸品も山積み。
芸術の秋ならぬ、芸術の冬である。
いつもながら山と森に感謝。
Merry Christmas!
=山小屋通信は来年も続きます。巻末に著者撮影の写真があります。あわせてご覧下さい。=
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★