メルマガ70

「森の駅発」メルマガ 第70号

・野外フォーラム報告後編「2015.11.06東京大学秩父演習林視察」桜井尚武
・東京大学秩父演習林 ホームページと公開講座の紹介
・山小屋通信–12「ニセアカシアの樹」大森 明

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野外フォーラム報告-2
「2015.11.06東京大学秩父演習林視察」 桜井尚武
(桜井当会副会長より寄せられた、当日の報告を前号と2回に分けてお届けしています。)

今回歩いた林道は1929年敷設開始⇒1969年廃止となった軌道跡に作られたもの、
3km程歩くと、昔の軌道の撤去後に残されたレールとすれ違うように造られた分岐部分
がありました。驚いたことにレールに錆がありません。
私も学生時代乗った記憶があるものなので、懐かしく感じました。
観光目的に再建できるんではないか、
秩父市観光課と共同開発をしたらいかがと思いました。

 滑滝の続く深い入川渓谷のこちら側は伐採後放置して50年ほどたつ二次林、
向かい側は成熟した天然林、大きな木の有無が対比して見渡せました。
イヌブナはブナのような白い樹皮ではないし、
根元から多数の萌芽枝を叢生させています。
白みがかった樹皮に幾筋もの溝が縦に走る直立した樹木は、
シオジとサワグルミ、ここには大径木が混生していました。
今回歩いたのは標高800m~1,000m位だと思いますが、この範囲だと
下部ではシオジが優占し、上部ではサワグルミが優占する山地帯の、
上部下部の境目だと思います。
推位帯というのは両分布帯の種が入り混じり、
いろんな樹種が見える面白いところでした。

 広葉樹林の下生えに常緑針葉樹のツガの稚樹がありました。
このツガは大日本山林会の総裁の秋篠宮殿下の御印です。
思わず写真を撮ってしまいました。
ちなみに、奥秩父では1,600m以上を針葉樹天然林が優占する亜高山帯とします。
亜高山帯ではツガの近縁のコメツガが尾根筋など乾燥しやすい場所に優占します。
コメツガはツガに比べて小振り、今年伸びた枝に0.2mmくらいの細毛(ツガは無毛)
があるという区別点があります。

 林道途中の「十文字峠・川又」とある道標のところで、
周辺の林の説明を聞いた後に折り返して、
紅葉に彩られた景観構成種を復習しながらかえりました。
終日天候に恵まれ、満足して再び事務所に戻り、山田利博林長に挨拶して、
歴史ある事務所内を観察し、飾られている演習林の樹木の里親の記念写真を眺めて
一日を終えました。
=完=
(巻末に筆者撮影の多数の写真の中から、文中にある秋篠宮殿下御印のツガの写真を掲載しました。)

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なお、当会主催野外フォーラム報告として紹介致しました秩父演習林について、
読者の理解にと、桜井尚武副会長よりホームページご紹介の要望がありましたので、
ご興味のある方は下記アドレスからご覧下さい。
http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/chichibu/
また当メルマガの性質上写真掲載には限界があり、魅力が十分伝わりませんので、
自ら秩父演習林ホームページをご覧になられることをおすすめ致します。
ホームページには概要のほか、秩父演習林の公開講座など活動紹介が出ています。
近くは来年1月23日公開講座「秩父演習林の動物たち」の開催予告が出ていました。
以下ご参考迄に転載致します。

1月23日公開講座「秩父演習林の動物たち」を開催します!
秩父演習林では、1月23日(土)に公開講座「秩父演習林の動物たち」を開催します!
今年の公開講座は「動物」です。
秩父演習林に生息する様々な動物たちについて学んでみませんか?

日 時:平成28年1月23日(土) 9時30分~16時
集 合:秩父演習林事務所(秩父市日野田町)
内 容:秩父演習林に生息する哺乳類について、これまで行ってきた調査研究の成果とともに
     ご紹介します。また、雪上での足跡等、動物たちの痕跡探しにも挑戦します。
対 象:一般(山道を歩くことがあります)
参加費:保険料として100円程度をいただきます。
定 員:20名(定員を超えた場合は抽選)
申込方法:住所・氏名・年齢・性別・電話番号・メールアドレスまたは
FAX番号・当日緊急連絡先(連絡のとれる家族等の氏名と電話番号)を明記の上、
メール(chichibu-riyou@uf.a.u-tokyo.ac.jp)か
FAX(0494-23-9620)でお申し込みください。
受付期間:1月8日(金)17時必着
問合せ先:電話0494-22-0272,FAX 0494-23-9620
メール:chichibu-riyou@uf.a.u-tokyo.ac.jp
ホームページ:http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/chichibu/

なお利用申し込み事項として、冒頭に以下の文章が赤字で掲載されていました。
これをもってしても、今回はなかなか得難い貴重な野外フォーラムだったと思います。
またいつか機会があれば、このメルマガを通し皆様にご案内致します。
秩父演習林では、2014年11月より原則として土日の外部利用を停止いたします。
詳しくは利用者窓口までお問い合わせください。

秩父演習林内のフィールド・施設・データを利用するには、許可が必要です。
試料採集、機材の設置、立木伐採等を行う場合は必ず事前にお申し出ください。
(環境省、埼玉県への許可申請が必要になる場合があります)
気象警報及び気象注意報(大雨,強風など)発令時は入林を禁止します。

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山小屋通信–12 「ニセアカシアの樹」 大森 明

ニセアカシアは鹿の食害にめげず、渓流沿いの敷地内に勝手に生えて、
ぐんぐん伸びてくる樹だ。
渓流沿いは日当たりもそんなに良くなく、
土壌(というより氾濫原のやせた砂・石ころ・岩の層)がやせているのに、
そういうところにたくさん生えている。
ときどき山の中腹でも見る木なので、
必ずしもやせた土地でないと生育できないわけでもないようだ。
きっと他の木や草に良い環境を譲るような、
自分に厳しく、他者にやさしい木なのかもしれない。
(ソウイウキニ、ワタシハ、ナリタイ)
ところが、そのニセアカシアの太いのが、1本倒れて道路をふさいでしまった。
当方が留守中のときに、強風があり倒れたのだ。
親切な近くの民宿兼酒屋の旦那さんが、チェーンソーで切って、
道路が通れるようにしてくれた。
森林管理の専門家に聞いたところ、ニセアカシアは根が浅くて倒れやすく、
長野県でも河川管理上困っているらしい。
(詳しくは長野県のホームページ等をご覧下さい)

それまでニセアカシアは、立派な樹形なので我が工房の絵画に登場したり、
花を天ぷらにして食べたり、蜜はおいしい蜂蜜になるとか、
良い面ばかりだったので、少しだけイメージダウン。
そういえば倒れた木を除去して片付けてくれた旦那さんは、
某登山隊が当山荘宿泊後に、山に向かおうとして隊長車が脱輪したときも、
駆けつけて救助してくれた方であり、あらためて感謝。
当山荘に来る方々には、酒類は
この旦那さんのお店で調達してくれるように依頼している所以である。
=山小屋通信は次号に続きます=

・実は編集部のメール上で、ニセアカシアはアカシアとどう違うのか調べませんか、
「アカシアの蜜というのも、有名ですね。」とグルメな中村メルマガ委員が提案。
その直後に桜井副会長から解説が届きました。
これぞ蘊蓄、当会の贅沢な知的愉悦です。

ニセアカシアの学名は< Robinia pseudoacacia >で、<Robinia >が属の名前、
調べたところ、Jean Robinという17世紀のフランスの庭師の名前から来ているらしい。
< pseudoacacia >は種小名で、
pseudo とは「偽の」とか「似たもの・のようなもの」の意味があります。
アカシアに似たものとして認識されてきた結果らしい。
ついでに< Acacia >属について述べると、大洋州やアフリカに多いもので、
日本には外来種として導入され、
モリシマ・ミモザ・フサ・ギンヨウなどの名を冠したものがあります。
おもに街路樹や庭園樹などに使われています。
熱帯早生樹として有名なものに<Acacia mangium>や<Acacia auricliformis>などがあり、
熱帯ではMajorな種で、盛んに植えられましたし、
越井木材工業ではボルネオで両種の交雑種を大規模に造林して製材し、
コンクリートパネルやトラックの荷台材などに活用していて、
ハイブリッドアカシアの名声づくりに貢献しています。
(以上は桜井先生から2015.12.07に届いたメールから転載しました。
また同時に東京大学総合研究博物館大場秀章教授のニセアカシアに関する詳細なレポートも
送って頂きましたが、読者の皆様には次号でご紹介させて頂きます。お楽しみに。)

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