メルマガ69

「森の駅発」メルマガ 第69号

野外フォーラム報告「2015.11.06東京大学秩父演習林視察」 桜井尚武
東京大学秩父演習林ホームページの紹介
山小屋通信–11 「赤とんぼ」 大森 明
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

野外フォーラム報告-1
「2015.11.06東京大学秩父演習林視察」 桜井尚武

(桜井当会副会長より寄せられた、当日の報告を次号と2回に分けてお届けします。)
11月6日(金)の東京大学秩父演習林観察旅行は
望外の好天に恵まれた温かい一日でした。
参加者12名、全員遅れることなく、秩父市日野田町の演習林秩父事務所に
10:00前に集合しました。
事務所前の駐車場では千嶋武技術専門職が出迎え、早速概要の説明です。
秩父演習林は、冷温帯地域の落葉広葉樹林とスギ・ヒノキ等の人工林からなる
5,812haの演習林で、大正5年(1916)設置といいます。
今回の目的は、旧大滝村栃本地区の先にある入川林道に入り
落葉広葉樹林を学ぶことです。

栃本の先の川又にある最奥の民家を過ぎると道路の舗装がなくなり、
やがて演習林に入ります。
左手には荒川上流の大きな支流の入川が流れます。
岩が底に張り詰めたように繋がり瀞が連続して現われてきます。
ニジマスやイワナの観光釣り場にもなっているようですが、
今は人気がなく、林道を散策する人たちとすれ違うだけでした。

入山前に、参加者はヘルメットの着用を指示され、
東京大学名の入ったヘルメットを全員が被りました。
千嶋先生は、今日はこの径に多い多様なカエデ類に焦点を当てて紹介します
と言って、まず葉がシデの木に似ているチドリノキをとりました。
黄色に色づいたチドリノキはカエデとは思えない、切れ込みのない葉で、
サワシバの様です。
でも、葉や小枝が対生しています、ほら果実を見て下さい、プロペラのような
羽を持ったカエデ特有の形をしているでしょ・・・、
本物を見せられてみんな納得。

ヒナウチワカエデの紅葉が見事でした。
ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、オオイタヤメイゲツと似たものが次々に
出てきますが、ヒナウチワカエデは秩父以外ではあまり見つけられませんので、
懐かしい思いがしました。次いで、薄紅に色づいたホソエカエデ、
これはウリハダカエデに似るものの葉脈腋に小さな水掻き用の膜があることと、
紅色のことの多い葉柄が区別点だそうです。
秩父を離れてからは見ておらず、最近では見分け点が怪しくなっていましたので、
勉強のし直しが出来ました。
=次号に続く=
(巻末に筆者撮影の多数の写真の中から、当日の美しい紅葉の1枚を掲載しました。)
全文内容は3枚の写真と共に森の駅発フェイスブックに11月20日付けで掲載しています。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
当会主催野外フォーラム報告として、前文で紹介致しました秩父演習林について、
桜井尚武副会長より、ホームページご紹介の要望がありましたので、
ご興味のある方は下記アドレスからご覧下さい。
http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/chichibu/

なおここでは読者理解の助けにそのホームページから概要紹介を致しますが、
当メルマガの性質上写真掲載には限界があり、魅力が十分伝わりませんので、
自ら秩父演習林ホームページをご覧になられることをおすすめ致します。

〈秩父演習林とは〉
秩父演習林は奥秩父山地に広大な森林を有するフィールドステーションです。
標高差の大きい急峻な山岳地形をもち、関東地方では数少ない原生状態の森林が広範囲に
わたって残存している特徴を生かして、冷温帯域の森林生態系
(森林動態・生物多様性・生物害)に関する教育研究活動を幅広く展開しています。
〈沿革〉
秩父演習林は、東京大学農学部の冷温帯地域における教育試験研究施設として、
1916(大正5年)に埼玉県大滝村(現秩父市)荒川源流域の民有林約6,000 haを
購入して設置されました。
1942(昭和17)年に、飛地約200 haを東京高等農林学校(現東京農工大学農学部)に
移管するなど地籍の変更があり、現在は5,812 haを所管しています。
〈位置〉
森林は、秩父市街地から西方22kmにある大血川地区(932 ha)と
西方40 kmにある栃本地区(4,875 ha)の2団地を有し、標高530~1,980 mを占めています。
両地区とも埼玉県秩父市に属し、秩父多摩甲斐国立公園内にあります。
大血川と栃本の両地区に作業所、栃本地区川俣に学生宿舎、秩父市日野田町に事務所、
下影森に圃場、黒石に施業実験地があります。
〈地況〉
関東山地中央部の荒川源流域にあり、荒川・笛吹川(富士川)・千曲川(信濃川)の
分水嶺である甲武信岳(2,475 m)を中心とした奥秩父山地の2,000 m級の山々に
囲まれています。
斜面中上部には緩斜面もありますが、
荒川が深く浸食して両岸に迫ったV字渓谷を形成しているため、
下部は急峻で全体的には典型的な山岳地形になっています。
栃本観測所(標高770 m)の過去15年間の気象は、
年平均気温が11.0℃、平均年降水量が1,593 mmでした。
積雪は年変動が大きく、平年20~30 cm程度です。
〈林況〉
当初は、炭焼きなどの広葉樹伐採跡地が約2,000 ha、
人手の入らない原生天然林が約3,800 ha、
人工造林地はわずかな面積にすぎませんでした。
現在は、人工造林地の面積が全体の13%・767 ha
(ヒノキ39%、カラマツ27%、スギ22%、サワラその他12%)、
天然林は全体の86%で、
そのうち落葉広葉樹主体の再生林(旧薪炭林含む)が63%・3,123 ha、
原生林が37%・1,848 haとなっています。
秩父演習林は立地の標高差が大きいため、
主に山地帯と亜高山帯の2つの森林が含まれています。
そこに生育する樹木相も63科・140属・260種と多様性が高く、
両帯のいずれかに分布の中心をもつ樹種によって多様な森林が成立しています。
山地帯域(標高600~1,600 m)では、尾根部の乾性な立地にツガの優占する針葉樹林が、
山腹斜面の適潤な立地にイヌブナ・ブナ、
谷沿いあるいは凹地形の湿潤な立地にシオジ・サワグルミの優占する落葉広葉樹林が、
それぞれ成立しています。また、乾性な立地にはヒノキの天然林もみられます。

なお利用申し込み事項として、冒頭に以下の文章が赤字で掲載されていました。
これをもってしても、なかなか得難い貴重な野外フォーラムだったと思います。
またいつか、訪れる機会があればこのメルマガを通して、読者の皆様にご案内致します。
秩父演習林では、2014年11月より原則として土日の外部利用を停止いたします。
詳しくは利用者窓口までお問い合わせください。
秩父演習林内のフィールド・施設・データを利用するには、許可が必要です。
試料採集、機材の設置、立木伐採等を行う場合は必ず事前にお申し出ください。
(環境省、埼玉県への許可申請が必要になる場合があります)
気象警報及び気象注意報(大雨,強風など)発令時は入林を禁止します。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
山小屋通信–11 「赤とんぼ」 大森 明

夏の暑さがピークを越えたころ、山小屋周辺にも赤とんぼが舞いはじめる。
特に草地になっているところで山仕事の合間に一息ついて空を眺めて、
秋の気配を感じていると、空に1匹、2匹と舞っている。
下界(東京近郊)と違うのは、人差し指を立てて空に突き出すと、
そこに止まってくれることだ。
すぐに止まる。
周辺の地面に挿した竹竿や木の杭にも止まっているのは、下界でもよく見るが。
かぶっている麦わら帽子にも止まる。
警戒心が無いのだろうか。
そういえば、ヤンマも湿地のほうから低空で水平飛行してくるが、
これは近くに飛んで来ても指に止まってくれない(怖がりなのかな)。
秋が深まり、紅葉が高い山から裏山にもおりてくる頃、
赤とんぼの舞う数はぐんと増える。
晴れて澄んだ青空・カラマツの黄葉・モミジの紅葉・ススキの穂・
赤とんぼの群れ・遠く鹿の鳴く声・心地よい風に秋を感じる。
色彩的にも変化が出ていろいろな絵の具を使えるので、
彩色画を描いても、スケッチをしても楽しい時期だ。
描いている最中にスケッチブックにも止まることがある。
やっぱり山の赤とんぼは人なつっこい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★