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森の駅発メルマガ No.189 2025 五月 May
May は豊穣を司るローマ神話の女神 Maia に由来、5月1日 May Day は本来自然の再生と芳醇を祝う日です。
目 次 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
・5月の横顔「端午の節句」
・山小屋通信 Part 106 「コルク栓をリメイク」大森 明
・ワインへの誘い 第4回「ブルゴーニュワイン」吉田 健一
・美術コラム「歌川広重「名所江戸百景」から『堀切の花菖蒲』」戸田 吉彦
・関連情報「MAY STORM(五月の嵐)」
5月の横顔 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
五月になると季節の変わり目の伝統行事 端午(たんご)の節句です。旧暦の人日(じんじつ/一月七日)
上巳(じょうし/三月三日)端午(五月五日)七夕(たなばた/七月七日)重陽(ちょうよう/九月九日)の五節句
は宮廷で節会(せちえ/宴会)を開き、江戸時代に幕府が奨励して武家から庶民へと広まりました。
今は新暦五月五日を国民の祝日「こどもの日」とし(1948年制定)他の休日と大型連休を成します。
そもそも五月は旧暦の午の月、「端」は最初の意味から、端午とは五月最初の午の日の意味です。
今でもひと月遅れの旧暦で行う地方もあり、日本以外のアジアの漢字文化圏は旧暦で行います。
女児の桃の節句である三月三日を上巳と言うのも同じく、旧暦三月初めの巳の日の意味です。
端午は菖蒲(しょうぶ)の節句と言い、この日は菖蒲の葉を湯船に入れる菖蒲湯に名残があります。
発祥の古代中国では菖蒲を他の薬草と共に酒に混ぜ、厄除けに飲むと南朝梁(りょう/502-557)や、
隋(ずい/581-618)の文献に現れ、我が国では天皇が薬玉(くすだま/薬草を固めて飾りを付けた団子)を、
菖蒲を髪に飾る参内者へ下賜(かし)、貴族も互いに薬玉を贈ると『続日本後紀』(747)にあり、
清少納言も『枕草子』に「節(せち)は五月にしく月はなし。菖蒲、蓬など…」と記しています。
日本で端午が男児の節句になる時期は定かでないものの、「菖蒲」は「尚武」や「勝負」に通じ、
菖蒲の葉を剣に見立て男児に戦さ遊びをさせたことなど、武家文化の台頭と関係があると思われ、
鎌倉時代以降に成立し普及したものと思われます。江戸時代の人々が飾った鍾馗や金太郎の絵は、
北斎の浮世絵や墨画として現存し、鯉幟(こいのぼり)も広重の浮世絵に登場します。武家で飾った
鎧兜や武具は明治の強兵策から一般へ広がり、男児を守る縁起に良いと今でも売られています。
また端午の節句に、柏餅(かしわもち)を食べる習慣も残っています。カシワは葉が枯れても落ちず
「葉守の神の樹」と呼ばれ、越冬して新芽まで残るので「家系が続く」縁起の良い樹とされます。
サクラの花が終わる五~六月が開花期で、黄緑色の雄花の花序(花の集り)が新枝に10cm~15cm
下がり、雌花は新枝の先に咲くと十月頃に大きな葉に守られるようにドングリを実らせます。
カシワの名は葉で食物を包む「炊葉(かしわ)」、食物の下に敷く「食敷葉(かしきは)」、堅い葉の
「堅し葉」に由来すると言われる通り、大きな葉は丈夫な上に抗菌作用と芳香があります。英名の
Japanese Emperor Oak、Daimyo Oak が日本に縁あるのは、日本は昔から柏の葉を家紋にし、
「三つ柏」を神職紋にするなど文化にしてきたからでしょう。しかし中国で漢字の「柏」は針葉樹
のヒノキ科を指し日本の広葉樹ブナ科コナラ属カシワとは異なります。学名 Quercus dentata 。
山小屋通信 PART106 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
「コルク栓をリメイク」大森 明(森の駅発メルマガ編集・発行)

家でワインを飲むと手元に残るコルク栓。木の温もりが感じられるせいか、捨てずに何となく工作
材料としてとっておく。やがて貯まったコルク栓で、いろいろと作ることになる。
過去には、木のおもちゃ車両の車輪にしたり、人形にしたりした。木のおもちゃ車両は遊びに来る
幼児が手にとって遊んでくれるが、持って帰ってしまうほど気に入るわけではない。コルク人形に
至っては用途自体が不明確だ。
そこで今回はもっと日常的に役に立つものを作ろうと思い、コルク栓をじっと眺めていて、アヒル
の形をした箸置きが頭に浮かんできた。アヒルの胴体と頭はコルク栓を削って作り、クチバシは木
の枝を削って作って後付け構造にする、ということに決定。
工具で切って削って磨いてできた各パーツをボンドで接着して組み立て、ニスを塗って完成したの
が掲載写真の2羽。嬉しかったのは、コルク栓は円筒形のため丸っこい感じを出しやすく、また、
柔らかく加工しやすい材質なので腰痛・肩こりのひどい当方にとっても “楽チン工作“だったこと。
そして当家では日々の食事で箸置きを使うので、毎日朝から食卓でアヒルと目を合わせることと
なった。コルクの木の模様も味わいがあり、自分で言うのも何だが、たいへん気に入っている。
ワインへの誘い (第4回) 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
『ブルゴーニュワイン』 吉田 健一( 元ろうきん森の学校 運営メンバー )
今回は、ブルゴーニュワインを取り上げます。
ブルゴーニュワイン
フランス東部に位置するブルゴーニュはボルドーと並ぶフランスワインの代表的な産地です。北の
Chablis地区から南のボジョレー地区まで南北に長い地域で、1日の寒暖差が大きくブドウの栽培に
向いています。

ブルゴーニュワインの特徴は、
ほとんどが1種類のブドウで造られている「モノ・セパージュ(単一品種)」であることです。
複数のブドウをブレンドしていないにもかかわらず、味わいや香りに深みがあり、
余韻を長く楽しめるのが魅力です。
「Chablis」「Cote de Nuits」「Côte de Beaune」「コート・シャロネーズ」「マコネ」
「ボジョレー」といった産地が有名で、産地毎にさまざまな個性を持つワインが造られています。
格付けは畑単位で行われ、
「グラン・クリュ」「プルミエ・クリュ」「村名クラス」「地域名クラス」の4つに分類されます。
ブルゴーニュワインの代表的な品種は「ピノ・ノワール」と「シャルドネ」です。
ピノ・ノワールは皮が濃い紫色をしている黒ブドウで、華やかな香りと爽やかでフルーティーな
味わいが特徴。タンニンの含有量が少なめで、軽い口当たりの赤ワインに仕上がります。
一方、シャルドネは淡い黄緑色の皮を持つ白ブドウです。気候によって香りが異なる品種で、冷涼
な地域では柑橘系、温暖な地域ではトロピカルフルーツのような香りになります。他の品質として
は、早飲みタイプのワインに使われることが多い「ガメイ」や、酸味と果実味が特徴の白ブドウ
「アリゴテ」なども栽培されています。
また、ブルゴーニュワインは1種類のブドウだけを使用する「モノ・セパージュ(単一品種)」が
ほとんどです。ブドウそのものの味わいを活かした、個性豊かで深みのあるワインを楽しめるのが
魅力です。
グラン・クリュ(Grand Cru)特級畑(1%)
グランクリュと格付けされる畑は希少性が高い。
ブルゴーニュが発展した中世から続く、歴史的に良質な畑が多い。
ロマネ・コンティやモンラッシェなど超有名畑は、という表記だけでなく畑名がラベルに一番
大きく記されることもある。
プルミエ・クリュ(Premier Cru)1級畑(11%)
プルミエ・クリュは、地質や地形、土地の場所が良質とされる。ラベルには畑名またはPremier
Cru/1er Cruと記される。
村名クラス(Communales)(36%)
グラン・クリュ、プルミエ・クリュほどではないが、とても良質な畑。
ラベルには村の名前が大きく記される。
地域クラス(Regionales)(51%)
上のどれにもあたらないブルゴーニュで造られるもの。
ほかの格付けに比べると手頃な価格で、ブルゴーニュワインの入門編としては最適。
例)「ブルゴーニュ」「マコン・ヴィラージュ」「クレマン・ブルゴーニュ」
有名な産地について
Chablis(シャブリ)
Chablisはブルゴーニュ地方の最北部にある地域です。気候は比較的冷涼で日照時間が長く、
ブドウの栽培に好適です。牡蠣など貝殻の化石を含む石灰質の土壌で、白ワインに用いられる
シャルドネの産地として有名です。キンメリジェンヌと呼ばれる石灰質の土壌で生産される、
ピリッとした酸味のクリスピーな口当たりのワインとして知られています。
Chablis地区は、ブルゴーニュ地方の中では最北端にありますが、なぜかぽつんと離れて
位置していることがわかります。実際にコートドールの北にあるディジョンとChablisは
結構な距離があり、この間にはワイン産地はほとんどありません。
もともとChablis地区は上質な白ワインの産地としてブルゴーニュ北部全土でブドウ栽培が
おこなわれていました。パリの近くにあったことからも首都の旺盛な食欲を満たし続けて
いたのです。
しかしそのChablis地区に歴史上最大の危難が訪れます。
19世紀の後半に襲ったフィロキセラ(注1)は、ブルゴーニュ全土を襲い、壊滅状態に追い込む
のです。ブルゴーニュは当時からすでに単一品種で栽培していたため、フィロキセラからすれば
わかりやすい格好の食糧源となったことも災いします。植えなおすためには大量の資金投下が
必要なところに折悪しく鉄道が開通します。
この鉄道によって南フランスの安価なワインがパリに流通することになり、Chablis地区は困窮
を極めるのです。追い込まれた農家の方たちは当然生活のために、どこかでブドウ栽培に見切りを
つけないといけない、ということになります。ブドウ農家は徐々に金になるほかの作物に切り替え
るようになるのですが、Chablis地区の生産者だけ、粘り強くフィロキセラの危難が過ぎ去るのを
待ったのです。
これがブルゴーニュの中でもChablis地区がポツンとある理由です。
注1. フィロキセラ(Phylloxera)とは、ブドウネアブラムシ(葡萄根油虫)というアブラムシの1種のことです。
体長1~2mmほどの小さな昆虫で、ブドウの木の根や葉の部分に寄生します。
根に寄生すると根の一部が瘤のようになり、葉に寄生すると葉にプツプツと茶色い出来物のようなものが生じます。
ブドウの木にはヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)やアメリカ系のヴィティス・ラブルスカ
(Vitis Labrusca)などの品種があります。
ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラはフィロキセラへの耐性がなく、フィロキセラが寄生すると数年で木全体が
枯れ果ててしまいます。カベルネ・ソーヴィニョンやピノ・ノワールなどワインに使われるブドウ品種のほとんどは
ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラですので、ワイン生産者にとってフィロキセラは名前すら聞きたくない、
忌避すべき存在です。
フィロキセラとは?ワインを襲う害虫とその対策 | アカデミー・デュ・ヴァン ブログより引用
Chablis地区のワインとは?|特徴とブドウ品種、合わせる料理 | WINEBOOKSより引用

Chablis Premier Cru2018
Cote de Nuits(コート・ド・ヌイ)
Cote de Nuits は、「黄金の丘」という意味を持つブルゴーニュの銘醸地「コート・ドール」の
北部に位置する地域です。標高200~400m のなだらかな傾斜地にブドウ畑が広がっており、
水捌けがよく、豊富な日射量を得られるのが特徴です。

Cote de Nuits 地区はブルゴーニュ地域圏コート・ドール県の中央から南部にかけて広がる
長さ20km、幅数百mほどのワイン産地です。
北から南にかけて途切れることなく続くブドウ畑は観光名所として親しまれており、
そのルートは Route des Grands Crus (グラン・クリュ街道)と呼ばれています。
またこの Cote de Nuits 地区 と Côte de Beaune 地区と合わせたコート・ドールは
2015年ユネスコの世界遺産に登録されました。ブルゴーニュ地方は冬の寒さが厳しく、
春にもしばしば霜に見舞われる大陸性気候に属しています。
そんな過酷な環境の中で Cote de Nuits は偉大なワインを造り続けていますが、
その要因は恵まれた地形にあります。Cote de Nuits 地区のブドウ畑は標高 200~400m の
なだらかな傾斜を持つ丘にあり、水はけがよく東、又は南東向きであることから
豊富な日照量を得ることができます。
Cote de Nuits の村名アペラシオンは北から Marsannay、Fixin、Gerey-Chambertin、
Moree-Saint-Denis、、Vougeot、Vosne-Romanee、Nuits-Saint-Georges と9つあります。
このうちグラン・クリュを所有していないのは、Marsannay、Fixin、Nuits-Saint-Georges
であり、さらに Marsannay はプルミエ・クリュも所有していません。

Nuits-Saint-Georges 1993
Côte de Beaune(コート・ド・ボーヌ)
Côte de Beauneは、コート・ドールの南部に位置する地域です。
Cote de Nuits よりもゆるやかな丘陵地帯でブドウ栽培が行われています。
世界でも有数の白ワイン銘醸地として知られており、
特に「モンラッシェ」「ムルソー」「コルトン・シャルルマーニュ」が有名です。
また、白ワインだけでなく、ピノ・ノワールを使った上質な赤ワインも多く生産されています。
白ワインの多くはシャルドネという白ブドウ品種から造られます。
アペラシオン(注2)や造り手の違いによって、酸が際立つすっきりとしたもの、酸とミネラルが
端正で引き締まったもの、リッチで豊満、力強いものなど、様々なスタイルの白ワインが
生み出されています。いずれにせよ、多くの秀逸な白ワインのアペラシオンが軒を連ねています。
(注2)アペラシオンとは、ブドウ畑の特定の地域を指す法的用語です。
法的保護を受けており、特定の地域のブドウ畑で栽培されたブドウを使用して製造されたワインにのみ使用できます。
アペラシオンは、その地域固有の気候、土壌、栽培方法などの特性を反映したワインの品質と個性を保証しています。
中でも「コルトン・シャルルマーニュ」「ムルソー)」「モンラッシェ・ファミリー」は
ブルゴーニュ白ワインの三大銘醸地とされています。
北に接する Cote de Nuits(仏:Cote de Nuits)が赤ワインの聖地なら、
Côte de Beaune は白ワインの聖地と言えるでしょう。
また、白ワインにばかり注目されがちですが、赤ワインも高品質なものが生み出されています。
コルトン(仏:Corton)という赤の特級畑=グラン・クリュもありますし、白:赤の比率の上
でも赤はそれほど低くありません。
ブルゴーニュ・ワインの高騰著しい昨今にあって、高品質・安価のお値打ち赤ワインがこの地区
には結構隠れています。18の村名アペラシオンを擁し、それぞれに個性的な特徴があります。
次回は、ローヌ地方を取り上げます。
美術コラム 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
歌川広重「名所江戸百景・堀切の花菖蒲」 戸田 吉彦
菖蒲で邪気を払う端午の節句は、古代中国に始まり江戸時代に日本各地へ広まったと言われ、
菖蒲園は北から南まで全国にあります*1。 昨年は明治神宮の菖蒲を巴水の絵でご紹介しました。
特に東京は皇居東御苑、小石川後楽園、清澄庭園、水元公園、小岩菖蒲園、綾瀬しょうぶ沼公園、
東村山北山公園、町田薬師池公園、青梅吹上しょうぶ公園、昭和記念公園など数多くあるのは*2
武家文化の名残に加え浮世絵「名所江戸百景・堀切の花菖蒲」の影響があるのかもしれません。
*1. 花菖蒲園一覧 https://www.japan-iris.org/syoubuen.html#hokkaido
*2. 東京都花菖蒲の名所 https://kanagawa87ban.web.fc2.com/syoubu_top.html

歌川広重(1797-1868)「名所江戸百景・堀切の花菖蒲」(左)同図構図解析(右上)「同・水道橋駿河台」構図解析(右下)
広重が絵に絵に描き残した「堀切」は、江戸時代、或いは室町時代に遡る歴史を有し、江戸時代
には沢山の菖蒲園が集まり、太平洋戦争前迄は堀切園はじめ沢山の菖蒲園がありました。戦争中は
全て水田になりましたが、戦後東京都が堀切園を買い取り、現在「堀切菖蒲園」(葛飾区堀切二丁目)
として区が管理運営し、江戸系花菖蒲を中心に200種、6,000株の花菖蒲が咲いています。
いずれアヤメかカキツバタ
美しい人の集まりを「いずれアヤメかカキツバタ」と称え、起源は平安時代の宮中に出たヌエを
退治した源頼政の歌と言われます。その褒美に参上した頼政が、後宮あやめに憧れていると察した
上皇は美女を並べ、あやめを当てよと戯れられるので、頼政は、「五月雨(さみだれ)に沢辺の真薦
(まこも)水越えていづれあやめと引きぞわづらふ」という和歌を奏上します。頼政は歌人としても
有名でした。梅雨で増す沢の水がマコモを超える様に思いが溢れ、アヤメを引き当てるのは難しい
という意味です。しかし水辺に群生するイネ科のマコモは円錐形の目立たない花ですから、草原で
紫の花を咲かせるアヤメと見分けがつかないとは、一体どういうことか疑問が湧きます。
実は、昔はショウブの花をアヤメと呼び、菖蒲をショウブともアヤメとも読んだと知ると、この
場合のあやめは水辺に自生するショウブになります。さらにショウブも端午の節句で湯舟に入れる
ハショウブ(葉菖蒲)であれば、ハショウブはガマに似た薄茶の円筒形の花で水辺に生えますから、
全て意味が通ります。やがてあやめは難解な歌を離れ、「いずれアヤメかカキツバタ」が生まれた
と考えられます。武将としての源頼政は平家全盛期に宮中護衛の京源氏棟梁として活躍し、最期は
平清盛に反旗を翻して自刃、頼朝の蜂起に繋がりました。菖蒲(あやめ)御前は実在した頼政の妻の
名前です。また夜に鳥と書く怪鳥鵺(ヌエ)の正体はツグミ科トラツグミです。夜になるとヒーッと
不穏な声で鳴くので幼い安徳天皇が病んだのでしょう。退治した鵺を刻み笹の小舟で川に流したと
記されたのも小鳥であれば理解できます。禁裏の史実が想像で膨らんだ一幕です。
ショウブ、アヤメ、カキツバタは同じ花と言えるのか
かつて菖蒲はショウブともアヤメとも読み、カキツバタもまたアヤメ科ですが、丈を比べると、
アヤメは高さ30~60cm、カキツバタは50~80cm、ショウブは70~100cmとかなり違います。
またアヤメの花弁は網目文様、ショウブは花弁の付け根が黄色く、カキツバタは付け根から白い筋
が花弁に伸びています。また生えている場所と開花の時期も違い、アヤメは草原や乾燥地を好み、
ショウブとカキツバタは川辺や湿地に咲き、その開花期もアヤメとカキツバタは五月、ショウブは
六月にならないと咲きません。これだけ違いがあれば、異なる命名にも合点がいきます。
とは言え端午の節句の菖蒲は四月の終わりから店頭に出ています。これは陰暦が新暦に変わり、
行事がひと月早くなったため実は無理に育てた早生栽培です。さらに前述の通りショウブは花菖蒲
(ハナショウブ)と葉菖蒲(ハショウブ)があり、両方揃うスーパーストアの普及前は菖蒲の花を花屋、
菖蒲湯の葉菖蒲は八百屋でと別々に求めたので子供には不思議で、後にハナショウブはアヤメ科、
ハショウブはショウブ科 *3 と知るに及びます。西洋の科学的分類学以前の縁起を担ぐ命名に加え
旧暦の行事が新暦に変わり、季節に関わる日本の伝統行事や固有の文化は謎が多くなりました。
*3. 農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/iba02-11.pdf
尾形光琳の「燕子花図」で有名なカキツバタは、燕子花の他に杜若とも書き、中国で杜若の字は
ツユクサ科、同じく燕子花はキンポウゲ科と違う植物です。このように同じ漢字でも日本と中国で
意味が違うのは植生や長い間の文化の違いです。英語圏も英米豪で単語の綴りや発音、同じ名詞で
違う意味も多々あり、アルファベット圏に広がるとさらに異なりますがそれが固有の文化ですから
自国の文化を守り他国も尊重します。しかし分類上は混乱するので植物名はカタカナで表記し報道
もそれに倣っています。因みに杜若をトジャクと読めばカキツバタ以外に中国と同じツユクサ科の
藪茗荷です。アヤメ科は平安時代前から栽培された日本原産種で、俳句では旧暦初夏の季語です。
最適な視点を求めて
さて今回、同じ「名所江戸百景」から「水道橋駿河台」も取り上げたのは、「堀切の花菖蒲」の
視点の面白さを比較して頂くためです。「水道橋駿河台」も力強く躍動感溢れどちらも広重得意の
近接拡大図ですが、広重の視点の高さは正反対です。「水道橋駿河台」は「東海道五十三次」以来
広重が得意とする俯瞰図。その一方、「堀切の花菖蒲」は晩年の傑作「名所江戸百景」に度々登場
する構図です。火消が家業の広重は常に櫓から江戸の町を見ていたと常々指摘されるように俯瞰の
巧みさは長所が絵に素直に活きた天性に近い才能です。それに対し下からの視点には広重の意図や
作意が感じられ、亡くなるまで第一人者として活躍し続けた一流絵師の探究心が伝わってきます。
また鑑賞者はこの低い視点に懐かしさを感じるかもしれません。筆者は初の雑巾掛けで、床から
見た教室が新鮮だった思い出がありますが、これはしゃがんだ視界であり、子供の目の高さです。
広重の「堀切の花菖蒲」は川船に寝転んだ視点でしょう。同じく下から見上げる視点で描いた絵で
思い出すのは、印象派のモネの「日傘の女」や、大波を見上げる北斎の「神奈川沖浪裏」です。
見上げる構図の意外性と非日常性
「神奈川沖浪裏」の視点が低いと話すと疑う人がいますが、波の形ばかり話題になり絵師の視点は
語られないからでしょう。水平線の低さを指摘すると理解を得ますが、俯瞰に比べ低い視点の絵は
少ないためか、俯瞰図や鳥瞰図ほど話題にする機会がないのかもしれません。下から見上げる図は
俯瞰図や鳥瞰図のようなよく知られた名称がなく、専門用語はありますが思い出せないはずです。
俯瞰の対義語や反対語を調べると、どの辞書にも「仰視(ぎょうし/仰ぎ見ること)」とあります。
仰視や仰角図は図学の専門用語ですが、日常会話では、「凝視」を連想するためか使いません。
また鳥瞰の対義・反対語はないのか、ある電子辞書には「虫瞰(ちゅうかん)」を提案とあります。
しかし「瞰」の字義は「見下ろす」で「見上げる」図には疑問があります。同音の「観」であれば
いずれにも使え、漢字も読み易く、英語の ”bird’s-eye view” と “insect’s-eye view” の対句も、
鳥観図と虫観図と翻訳できます。イメージも湧き易く日常会話レベルで使い易いと思います。
このように言葉に注目するのは、近年はAI に言葉で指示して作画させる時代になったからです。
地平線(水平線)の1点(消失点)へ収束する様を製図的に描く遠近図法が透視図ですが、江戸時代に
日本に伝わり目新しさで浮世絵に登場しますが、絵は気韻と情緒で描く伝統のためかコンピュータ
の登場まで、日本では苦手意識が強く、建築のパース画以外発展しませんでした。AI で容易になり
ましたがどの絵も同じに見え退屈なのは、視点の意識がなく、構図が似たり寄ったりだからです。
昔筆者が見た米国の透視図の子供向け指導書は、作図原理と Eye Level(アイレベル・視点高度)で
解説が始まり、梯子の上や腹ばい状態で視界が劇的に変わる図が魅力的でした。写真もカメラ位置
がアイレベルとなり、前後・左右・高低に従い被写体の写り方が変わります。何を描く(撮る)かが
決まればどう見せるか考えるのが画家や写真家です。技法の目的を最初から外さぬ欧米は、教育も
闇雲でなく本質を突いています。しかし歴史をたどると、北斎や広重の影響も見えてきます。
東洋も西洋も中世までの絵は遠方へ行くほど上に描く俯瞰図で、地平線は高く大和絵は地平線が
ありませんが、位置関係が分かり易い説明目的図です。肖像画も特徴を捉え易い平行視点の説明図
です。やがて西洋はルネサンス期に目に見えるごとく描く透視図を完成し、地平線を意識し始め、
鑑賞絵画としての風景画の確立と共に低い地平線が増えます。日本では鳥居清長の美人画の背景に
地平線が現れ、西洋画を研究した司馬江漢らの後に北斎と広重が登場、自由な視点で人々の関心を
集めます。そしてその絵に刺激を受けた印象派以降、西洋は多種多様な視点を獲得します。
参考文献:小林忠監修「浮世絵『名所江戸百景』復刻物語」芸艸堂 戸田吉彦著「北斎のデザイン」翔泳社
関連情報 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲 🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
MAY STORM(五月の嵐)
監修:松尾 典子(元 NHKアーカイブ プロデューサー)
「五月晴れ」という言葉は、爽やかな青空と輝く新緑に相応しく、今年も4月末から始まった
大型連休の、「ゴールデンウィーク」に旅行や遠出を楽しまれる方も大勢おられると思います。
気温も上り外出に最適な季節ですが、寒気と暖気が入り混じる時期はなかなか油断できません。
この季節の変わり目を海外では「メイ・ストーム(五月の嵐)」、日本は「春の嵐」と呼びます。
気温が急変し、強風、雷を伴う豪雨、突然の雹(ひょう)、海の高潮などが起きるからです。
雹は氷の粒*です。近年では2000年5月24日千葉県北部・茨城県南部の広い地域で暴風を伴った
直径5 - 6 cmの雹が降り、負傷者162人、家屋約48000軒が被害を被りました。雹が降ることを
降雹(こうひょう)、その被害を雹害(ひょうがい)と言います。樹木や農作物を傷つけるほか建物や
自動車の屋根や窓ガラスを直撃し、風で雹が斜めに降ると窓やドアを損傷します。また屋外にいる
動物も打撃を受け、過去にはバングラディシュで92人が亡くなる悲劇(1986)がありました。
* 霰(あられ)も氷の粒ですが、大きさの違いで呼び分けます。雹は直径5mm以上、霰は直径5mm未満です。
一年の内で最も雹害の多い月は5月(約115件)という気象庁のデータ(2005年まで10年間の全国平均)
がありますが、降雹は5月から7月に集中します。特にこの時期に雹が多く降るのは地表と上空の
温度差が大きく、発生した積乱雲が雹を降らせるためです。昔から大砲の轟音で防ごうとしたり、
現代ではソニックブームやロケットなど、様々な対策が試みられましたが解決に至っていません。
雹の予報はありませんが、雹が降るような日は同じ積乱雲から発生する雷や竜巻も発生しやすく、
そのような不安定な天気を予想すると、気象庁が「気象情報↓」で数日前から注意を促します。
https://www.jma.go.jp/bosai/information/#area_type=centers&info_id=20250406210652_0_VPCJ50_010300&format=text&area_code=010300
雹は雷とセットで起こることが多いので、気象庁の「レーダーナウキャスト↓」の雷の状況なども
チェックすると、雷が鳴る場所は雹が降る可能性もあると考えて、当日の対応や対策もできます。
https://www.jma.go.jp/bosai/nowc/#zoom:6/lat:36.923548/lon:138.988037/colordepth:normal/elements:hrpns&liden
先月10日午後6時ごろ奈良市で落雷、男子中学生6人が病院に搬送される事故がありましたが、
これから落雷も増えます。海、平野、山など場所を選ばず、近くの高いものを通って落ちる傾向が
あります。グランド、ゴルフ場、屋外プール、堤防、砂浜、海上など開けた場所、山頂や尾根など
高いところは人に落雷しやすく、注意と避難の仕方を、気象庁とNHKがネット公開しています*。
*気象庁・雷から身を守るには https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/thunder4-3.html
*NHK防災・夏に雷が多い理由 雷対策の最新知識「雷サージへの備え」
https://www.nhk.or.jp/bousai/articles/21670/#:~:text=%E3%80%8C%E6%B5%B7%E6%B0%B4%E6%B8%A9%E3%81%8C%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%80%8D%E2%86%92,%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
「天災は忘れた頃にやってくる」という寺田寅彦の言葉通り、落雷や降雹のある日が朝から荒天と
は限らず、「午前中は晴れ、夕方から雲が広がり雹が降る」という週間天気予報も多いのです。
出先でもスマホなどで気象情報を確かめられますので、こまめにチェックすることが大切です。
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森の駅推進協議会は日本の森林産業を応援し、森と樹木の文化育成を目指して、
下記の活動を行っています。皆様の生活と仕事にお役立て下さい。
1「森の駅発メルマガ」発行:
日本の森と国産木材が生む健康な環境、良質な文化情報、社会的な関心を紹介します。
また、当会のフォーラム、研究会のお知らせもします。毎月1回発行。
お問合せ:happysun9@gmail.com
2「健康住宅/森の駅発」活動:
住まいづくりのプロが日本の森を元気にし住む人を元気にする、「森に愛される家」を普及。
新製品の紹介、展示会への出展、イベント開催などをメルマガでお知らせします。
https://moriniaisareruie.jimdofree.com/
3「市民フォーラム」開催:
日本の森から生まれる環境や文化を広範な視点で企画・開催。詳細は当メルマガで告知します。
4 メルマガ・バックナンバー:
「森の駅発メルマガ」のバックナンバーはこちらからご覧いただけます。
http://www.morinoekihatsu.net/merumaga.html
5「フェイスブック」の発行:
「森の駅発」フェイスブックも発信。仲間を募集しています。
https://www.facebook.com/健康住宅森の駅発-110930398990272/
6「ホームページ(HP)」の掲載:
過去の実績や森の駅推進議会の趣旨などについては、森の駅発のHPをご覧下さい。
http://www.morinoekihatsu.net/
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