(1)現状
不在地主とは 所有する土地から離れた遠隔地に在住する地主のことであり、戦後実施された農地改革制度の不在地主とは意味合いが異なります。
全国の森林面積の中で、不在地主の所有面積は327万ha、民有林面積の24%を占め(平成17年)、今後も増加傾向にあるといわれており、大きな問題になりつつあります。
このような不在地主はどうして生じたのでしょうか。その要因として次の3点が考えられます。
第1は 相続制度
戦後、家督相続制度の廃止により、妻や子供にも平等な権利を与える均分相続制度になりました。このことは土地保有が細分化され不在地主化が進むことになりました。
第2は 投機目的
経済バブル時には値上がりを見込んだ土地投機が行われました。購入した土地は利用目的ではないため、不在地主となっています。
第3は 過疎化
農山村から仕事を求め、また生活に支障が生じたため街へ転出しまった結果、不在地主となります。
この結果 第1の相続制度による場合は、子、孫等に受け継がれて、更に細分化され、自己の所有地がどこにあるか、また所有していることさえ忘れている場合が多くなります。第2の投機目的で購入した場合は 山林の保全管理はまったく考えていないでしょう。第3の過疎化問題は、農業・林業いわゆる一次産業での生活が成り立ち得ないために生じたことですが、これはいずれ第1の問題に関連してきます。
(2)どんな不都合が生じているか前述の要因により また不在地主の住所移転に伴うことなどから、所轄官庁では事務手続きの煩雑化、税徴収の困難性などの多くの問題を抱えることになります。
在地地主側(地元)では 不在地主に連絡が取れなかったり、あるいは地主が誰だか判らないケースが多くなっており、大きな障害になっています。
それは不在地主の土地といえども、他人の土地はむやみにいじれないからです。
例えば不在地主の土地に隣接する林道が荒れ、あるいは崩落等で通行できなくなっていた場合などは、自己の山林の維持管理にも支障をきたし、また 森林組合が大規模に森林を維持・管理を実施する場合においてもこの不在地主がネックになりますし、山林火災が生じたときも同様です。
地元で諸対策が必要になった場合には、法務局で謄本を取ると費用がかかりますし、また不在地主が謄本記載の住所から転出していたり、どうしようもない事態が発生したりします。
さらに個人情報保護法もかかわってきます。
20~30年前ですと、土地の移動が少なく、また長老たちが居た為、所有権者は殆ど判っていました。
さらにこの場所は、不法投棄の温床場所になっていることです。
一度不法投棄されますと、その場所は益々不法投棄が多くなり、環境悪化を招きます。
さて、NPOなどのボランチィア団体が、里山の整備を行なう場合のトラブルが境界です。
このことは隣接土地が不在地主であれば、言い方が悪いかもしれませんが至極当然なこととして起きる問題です。
ところがこのことは 不在地主だけで片付けられる問題ではなく、山林へのかかわりが少なくなっている在地地主、そしてそれを受け継ぐ世代でさえ、自己所有地の境界がわからなくなっていますし、また数年後には更に、いや、現在すでに自己所有地がどこにあるのかさえ判らなくなってきています。
これは放棄山林が増えるということ、森林の保全・管理は益々遠のいていくことにもつながります。
さて、北陸地方を中心に落葉広葉樹林で「ナラ枯れ」現象が急速に進んでおり、被害を受ける樹木は高齢大径木であり、20~30年の若齢径木は被害が少ないといわれていますが、この対策にも不在地主の存在はネックになってくるでしょう。
(3)打開策このような 問題があることにもかかわらず、健全な森林環境にするためにと作成された「生物多様性国家戦略2010」環境省編にはこの不在地主のことは触れられていません。
山主、林業関係業者の発展は結果として健全な森林環境を守っていけることに繋がりますし、そこでは不在地主は避けて通れない問題となるでしょう。
林家の98%は5ha未満の所有者であるとの現状からは、あまりにも規模が小さいことが判ります。
このような林家は農業・林業を兼ねて生活を維持してきた経緯がありますが、施策は農業、林業と分野別にするのではなく、小規模地においては農業と林業は表裏一体化・結合した関係にあります。
農地を守り、ともに森林を守る施策が必要であり、ひいては生物多様性保持にも繋がるのではないのでしょうか。
農業においては現在関係機関が耕作放棄地解消に向けて取り組み また農地の大規模集積化を進めていますが、これと同じような施策を林業経営にも実施したらどうでしょうか。
このことを通じて不在地主に土地の売却を勧め、不在地主の解消を、そして小規模の地主に対しても売却を進め、山主・林業関係者の規模拡大を図ったらどうでしょうか。
しかしながら規模拡大を施策しても生活、経営が成立しなければ、その取り組みは絵に描いた餅にならざるを得ません。
そこで山主・林業関係者の規模拡大とともに経営が成り立つためには、補助金制度は必要不可欠となりますが、補助金は山主・林業関係者に直接、しかも複雑な手続を経ることなく渡り、また効果的に使われる事が必要となります。
従来の補助金制度は 関係する行政機関と関係業者につぎ込まれ、山主・林業関係者は殆ど恩恵を受けていないといわれていますが、このことは絶対避けるべきでしょう。
さらに 環境税、カーボンオフセット制度を積極的に進め、健全な森林の整備・利用に役立てるべきと考えます。
不在地主の対応については 法整備が必要となるでしょう。
それが行なわれれば関係する行政機関のコスト削減にも繋がりますし、健全な森林の整備・利用にも役立つでしょう。