20151106東京大学秩父演習林観察旅行の報告(桜井尚武)
11月6日(金)の東京大学秩父演習林観察旅行は望外の好天に恵まれた温かい一日でした。
参加者全員12名、遅れることなく、秩父市日野田町の演習林秩父事務所に10:00前に集合しました。
事務所前の駐車場では千嶋武技術専門職が出迎えてくれ、早速概要の説明です。秩父演習林は冷温帯地域の落葉広葉樹林とスギ・ヒノキ等の人工林からなる5,812haの演習林で大正5(1916)年設置といいます。
今回の目的は、旧大滝村栃本地区の先にある入川林道に入り落葉広葉樹林を学ぶことです。
栃本の先の川又にある最奥の民家を過ぎると道路の舗装がなくなり、やがて演習林に入ります。
左手には荒川上流の大きな支流の入川が流れます。
岩が底に張り詰めたように繋がり瀞が連続して現われてきます。
ニジマスやイワナの観光釣り場にもなっているようですが、今は人気がなく、林道を散策する人たちとすれ違うだけでした。
入山前に参加者全員ヘルメット着用を指示されました。
東京大学名の入ったヘルメットをみんな被りました。
千嶋先生は、今日はこの径に多い多様なカエデ類に焦点を当てて紹介しますといって、まず葉がシデの木に似ているチドリノキをとりました。
黄色に色づいたチドリノキはカエデとは思えない、切れ込みのない葉で、サワシバの様です。
でも、葉や小枝が対生しています、ほら果実を見て下さい、プロペラのような羽を持ったカエデ特有の形をしているでしょ・・・、本物を見せられてみんな納得。
ヒナウチワカエデの紅葉が見事でした。
ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、オオイタヤメイゲツと似たものが次々に出てきますが、ヒナウチワカエデは秩父以外ではあまり見つけられませんので、懐かしい思いがしました。
次いで、薄紅に色づいたホソエカエデ、これはウリハダカエデに似るものの葉脈腋に小さな水掻き用の膜があることと紅色のことの多い葉柄が区別点だそうです。
秩父を離れてからは見ておらず、最近では見分け点が怪しくなっていましたので、勉強のし直しが出来ました。
今回歩いた林道は1929年に敷設開始⇒1969年に廃止となった軌道跡に作られたもの、3km程歩くと昔の軌道の撤去残りのレールとすれ違いように造られた分岐部分がありました。
驚いたことにレールに錆がありません。
私も学生時代乗った記憶があるものなので懐かしく感じました。観光目的に再建できるんではないか、秩父市観光課と共同開発をしたらいかがと思いました。
滑滝の続く深い入川渓谷のこちら側は伐採後放置して50年ほどたつ二次林、向かい側は成熟した天然林、大きな木の有無が対比して見渡せました。
イヌブナはブナのような白い樹皮でないし、根元から多数の萌芽枝を叢生させています。
白みがかった樹皮に幾筋もの溝が縦に走る直立した樹木はシオジとサワグルミ、ここには大径木が混生していました。
今回歩いたのは標高800m~1,000m位だと思いますが、この範囲だと下部ではシオジが優占し上部ではサワグルミが優占する、山地帯の上部下部の境目だと思います。
推位帯というのは両分布帯の種が入り混じり、いろんな樹種が見える面白いところでした。
広葉樹林の下生えに常緑針葉樹のツガの稚樹がありました。
このツガは大日本山林会の総裁の秋篠宮殿下の御印です。
思わず写真を撮ってしまいました。ちなみに、奥秩父では1,600m以上を針葉樹天然林が優占する亜高山帯とします。
亜高山帯ではツガの近縁のコメツガが尾根筋など乾燥しやすい場所に優占します。
コメツガはツガに比べて小振り、今年伸びた枝に0.2mmくらいの細毛がある(ツガは無毛)という区別点があります。
林道途中の「十文字峠・川又」とある道標のところで周辺の林の説明を聞いた後に折り返して、紅葉に彩られた景観構成種を復習しながらかえりました。
終日天候に恵まれ、満足して再び事務所に戻り山田利博林長に挨拶して、歴史ある事務所内を観察し、飾られている演習林の樹木の里親の記念写真を眺めて一日を終えました。
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